レビュー『86‐エイティシックス‐』


 豚に人権を与えぬことを、非道と謗られた国家はない。
 故に、言葉の違う誰かを、色の違う誰かを、祖先の違う誰かを人の形の豚と定義したならば、その者達への抑圧も迫害も虐殺も、人倫を損なう非道ではない。


 安里アサト著
『86‐エイティシックス‐』9Pより引用。



▽電撃文庫から放たれた、圧倒的文章力と構成力からなる戦争悲譚。

▽『86‐エイティシックス‐』は時代の先端を駆け抜けるライトノベル。

▽その重厚な世界感設定や伏線の張り方は他に類を見ない最高のレベルであり間違いなくライトノベル史に名を残すであろう作品。

▽これから娯楽小説を書きたい、もしくはすでに書いているが滞っている人は是非とも読むべき作品だ。

▼では、本文へどうぞ▼



86‐エイティシックス‐


著 安里アサト
イラスト しらび
メカニックデザイン Ⅰ―Ⅳ

電撃文庫刊


 僕がそれを手に取ったのは、ライトノベルにしては珍しい構成の表紙だから気になっていたから。
 
 一見すれば、男女が向かい合って手を差し出しあっているかのように見えるイラスト。

 しかし、男はその手を『銃のように』構えて、女性が差し出しているその手とはすれ違っている。

 ヒロインらしき銀髪の女性の頬を水滴が伝っている様は、この物語が決して『ライト』ではないのだと訴えてきていた。

 結論を言えば、読後の僕の胸中は穏やかでもなければ幸福感を得ていたわけでもない。

 ただ、そうただひたすらに唖然としていたのだ。

 気がつけば2巻3巻と読み終えていた僕は、完全に『86‐エイティシックス‐』という化け物の虜となっていた。
 
 僕がシリアス物を好むというのも理由にはあるが、そんな単純な理由では収まらない嘆息と目頭の熱さの説明にはならない。

 故にこのレビューは、僕が僕自身を納得させる為のものであると言っておこう。

『86‐エイティシックス‐』は戦争譚である。

 既に滅びた隣国が放って、今も尚駆動を続ける殺戮無人兵器『レギオン』と主人公達の"乗る"『自立型無人戦闘兵器』との戦いを描いている。

 そう、無人だ。

 曰く『人でないものを乗せればそれは無人機だ』という。

 無論、主人公達は人間である。

 これは、差別と迫害と、それでも存在を繋ごうとした者達とそれを見下ろすだけの愚かな『白ブタ』の物語。

 さて、この作品の特徴はその膨大で緻密な伏線と世界観だ。

 一文字一文字が意味をもっているかのようなその文章構成には脱帽せざるを得ない。

 用語や固めの文章ゆえに、読みやすさに関しては難があるが、この作品においてはそれすらも世界観を構成する重要なファクターである。

 生ぬるいギャグやイチャラブ何て要素の一切を簒奪し切り捨て唾を吐いた文章は、故にリアルな『戦争』の中に読者を誘うのだ。 

 主人公とヒロインが交わすやりとりもまた、心臓を締め付けるほどに魅力的だ。

 何せ二人は、『1巻では互いの顔すら知らずにいる』のだ。

 声だけでの交流、それもある地点までは一方的で利己的なデッドボールでしかない。

 それが物語が進むにつれて互いに変化していく様は感嘆符しか浮かばないというものだ。

 しかし、理解を互いに深めたとしても、そこに救いは訪れない。

 ヒロインは上司であり主人公は部下、死ぬことだけを命じながらも『死ぬな』と吐くことしかできない。

 次々とヒロイン率いる部隊はその数を減らし、それと共に精神をすり減らしていく。

 最後には、絶対に帰ってくることのできない偵察任務に主人公達を送り出すことになる。

 もう、ここまで読み進めた時点で読者の心すら磨耗していることだろう。

 だが、最後のページまで読めばきっと、その頬を伝うものがあるはずだ。

 理不尽に染まった物語。それでも足掻く者達の英雄譚。

 最後のページを閉じて、そうしたなら表紙のイラストをまた眺めてほしい。

 


▽どうも文章に感情が込もってしまうね。

▽それだけ、読んだ時の衝撃が強かったってことなんだけど。

▽ありふれた語彙しか持たない自分が嫌になるよ。

▽しかし。この作品は是非にでも読んでほしい。

▽好き嫌いで読まないでいていい作品ではないのだ。

▽必修科目であるとすら言えるね。

▽電撃文庫では現在、ヒロインコンテストをやっているけど、86‐エイティシックス‐を読めばこの作品に投票するしかなくなるんじゃないかな。

▽僕は5票入れたよ。布教用に買った本の分ね。

▽絶対に後悔はさせない戦争譚。

▽最新4巻は5月10日発売予定。

▼公式ホームページは下からどうぞ。


電撃文庫 86―エイティシックス―




コメント

非公開コメント